2010年10月30日土曜日

伝説の一夜(穐吉敏子ツアー回想録vol.2)

中国で撮ったお気に入りの一枚↓





















北京の故宮をバックにポーズを決めるおじさん。カメラに気づいていたのだろうか?

さて、少し間が空いてしまったが、前回の続きを覚えている限り書き残しておきたいと思う。

東京公演は主催者の一員ということもあり、当日は大慌てで大変忙しかった。
なにせ上海からの帰国当日に東京公演をするという、超強行スケジュールである。
メンバーの乗った飛行機(上海→成田)が遅れたという一報を聞いた時は焦ったが、
成田からの送迎バスにメンバーの楽器が乗りきらなかったという知らせを聞いた時はもっと焦った。ベースと管楽器の一部が下のトランクに入らなかったそうで。

しかし何とかなるものである。
メンバーの便も約1時間半遅れで到着し、積めなかった楽器もワゴン型タクシーに乗せて運搬。
中国ではやらなかった曲を中心にリハをささっと済ませて、本番を迎える。

そして伝説の一夜は幕を開けた。

あまりにも素晴らしすぎた。

本番中も慌ただしく動きまわることがあったが、
それでも何曲かは舞台袖から見ていた。

Long Yellow Roadが始まって、あのメロディーを聴いたときに、なぜか涙が浮かんできた。
たった1週間をとはいえ、時間を共有した者同士には特別な感情が芽生えてしまうのだろう。

こう言ってしまっては何だが、明らかに北京・上海のときとは比べ物にならないようなエネルギーがステージ上から発散されているのに気づく。
メンバーの表情、音にこもる気の入り方が凄まじいのだ。
曲を重ねるごとに加速度的に増していくテンション。
本当に本当に楽しすぎて、それはもうヤバいくらいに。
それは聴いている僕だけでなく、メンバーたちもそんな感じだった。
表情が違う。気合の入った表情と、楽しくてしょうがないという笑顔。

東京公演は素晴らしい演奏が生まれる条件が完全に整っていた。
素晴らしい音響と、素晴らしいお客さん、素晴らしいレパートリー。
そして、メンバーたちがこれが間違いなくラストステージであることを心のどこかで認識していたのだろう。本当に感動的なステージだった。

僕だけが半ば興奮状態で語っているようだが、
親しくさせてもらっている某ジャズ雑誌の記者の方から頂いたメールの一文を紹介しておく。
「仕事柄、いろいろなライヴやコンサートを見ますが、ああいう胸の空くような公演に
はなかなか出会えません。伝説の一夜となりましたね。」

というわけで、“伝説の一夜”という言葉、頂いちゃいました。ごめんなさい(笑)

一週間を通じて何人かのメンバーとは、ちょっとしたやりとりをすることができ、
音楽に取り組む姿勢を間近に見ることができ、非常に貴重な体験ができた。
中でも、本番直前の楽屋周辺で、何人かのプレーヤーが、
本番前とは思えないハードな練習に取り組む姿は目に焼き付いている。
David Bixler(as)とTom Christensen(ts)は特にすごかった。練習熱心で知られるコルトレーンの逸話を思い出してしまった。Lew Tabackinもフルートのメロディーを何度も確かめるように吹いていた。
見習いたい。

二人のバンド・リーダーは本当に偉大な方だった。
今更何を言ってるんだ、と思わないでいただきたいが。

まずLewさんは、真の芸術家だと感じた。
ソロをとるだけで周りの空気、すべてを変えてしまう。
彼の音に包まれると、何もかもが高貴なもののように感じてくるというか、
変な話、生きててよかった的なことを感じるのだ。
心の奥底まで音が届く、本当に素晴らしいプレイヤーだと思った。
聴いたことのない人は絶対に聴いてほしい。テナー、フルートともに超一流。


Lewさんとマンデイ満ちるさんに挟まれて緊張気味

そして、穐吉さん。
結局のところ、このツアーを通じて、個人的にお話をすることはできなかった。
とてもじゃないけどできなかった。あまりにも偉大で、易々と近づけるような方ではない。
でも、話さなくても、この人の凄さはいるだけで伝わってくる。
真に偉大な方というのは、話したりしなくても、
ただその人の醸し出す空気だけで伝わるのかもしれない。
苦労を重ねて成功に辿りついた年輪や信念のようなもの、
自分が成し遂げてきたことに対する自負のようなもの、
人々に素晴らしい音楽を届けたいという情熱や愛情のようなもの、
そういったすべてが全身から溢れていた。

穐吉さんを正面からとらえたショットは、残念ながらない。だから背中で語ってもらおう。

ついてまわった者の裏話的な観点で言うなら、
今年81歳という御歳を迎えられるとのことだが、彼女は現役の「役者」である。
カメラが回っていたり、ステージに立ったり、いわゆる本番となると、スイッチが入る。
姿勢、話し方、表情。何から何まで超一流のそれに変わる。オーラがみなぎるのである。
その様を目撃できたことを本当に光栄に思う。

他のメンバーも何人か紹介しよう。
リードアルトのDave Pietro。
ニューヨークのリードアルトの音がする。ソロもかっこいい。本当にうまい。
実は6月くらいに東京で聴いて、素晴らしすぎてその場でCDも買ってしまった。
今回は時間がなくて教わることはできなかったが、来年も東京に来るそうなので、
今度こそ事前にコンタクトをとっていろいろ話を聞いてみたい。


続いて、サードアルトのDavid Bixler。
この人には本当に感謝している。人間的にも素晴らしい。
ツアー中、すれ違うたびに声をかけてもらい、レッスンまでしてもらえた。
「Be Patientにやっていれば、いつか必ずfreedomな演奏ができる」
この言葉を信じて、続けていこう。


セカンド・トランペットのAlex Sipiaginはニューヨークの最前線にいるプレイヤー。
ソロかっこよすぎ。ロイ・ハーグローブを彷彿とさせる。
Dave Holland(b)やMichael Blecker(ts)との共演歴があり、最近はChris Potter(ts)らとやってる。
マンデイ満ちるさんの夫です。そんな方と、私は一緒に中華を食べてしまいました。
ぜひ一度聴いてみてほしいプレイヤーです。




 

というわけで、長々と書きましたが、
ニューヨークに行く気持ちが一段と強まった今日この頃である。
もう少し地力を蓄えたら必ず行こうと思う。焦らず、しかし着実に前へ。
そして機を逃さず行こうと思う。

最後に、関わったすべての方に、心からお礼を言いたいと思います。
とりわけテムジンの社長、そしてバンド・メンバーの方々には本当に感謝。
ありがとうございました。


ところで、
昨日、高田馬場コットンクラブの深夜ジャムに行った。
多田誠司さん(as)、片倉真由子さん(pf)、高道晴久さん(b)がホスト。
それぞれの方とお話ができて良かった。
多田さんのセッションには3回目だが、「Yeah!」と笑顔で肩をたたかれたのは
正直かなり嬉しかった。
片倉さんには横濱ジャズプロムナードで聴いて気になっていたことを直接聞くことができた。
高道さんにはニューヨーク&ボストン留学事情を聞くことができた。
そしてこの夜のセッションには、なんとなんと
BENNY GREEN(pf)!
が来ていた。圧巻!ものすごいタッチから生まれる強く美しい音。強烈なスイング。YEAH!

まだまだ東京も捨てたもんじゃない。

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